2004年9月25日(土)〜26日(日) 夢にまで見た青魚 煮込みマッチョ

利根川到着時から北東の風が吹き霧雨が降ったり止んだりの天気で、いかにもという雰囲気だったが、一日目の朝に60cm台の鯉が来てからというもの空アタリすらなく、夜中のコマセ撒きもサボったまま寝込んでしまい、二日目の朝四時頃ザーッという強い雨の音で目が覚めた。

結局夜中も全くアタリがなく、7月からこんな状態を何度経験しただろう、と思ったら体の力が抜けた。今年はもう終わりかなあ?とも思った。前日からこんな天気にもかかわらず寒さは感じなかったが、寝起きの体温が下がりきった状態で外へ出るのは億劫になる。そしてまたウトウト…

突然センサーのメロディと声に叩き起こされた。1番の竿だ。時計を見ると6時21分。車内に鳴り響くメロディの隙間から、微かにギーッというリールのクリック音も聞こえてくる。空アタリではない!慌ててスパイクブーツを履いて外に飛び出す。玉網を取りに行っている間も
クリック音が鳴りっぱなしで止まらない。その間何十秒でもないはずだがやっとのことで竿にたどり着いた時に見たスプールの細さに愕然とし、また恐怖さえ感じた。100mは走られている。

もしや!?と思ったと同時に竿をひっつかんでスプールを押さえながら大アワセをくれる。ガツンという重量感で竿が立てられない。この重さは鯉ではないことはすぐにわかった。

道糸を少し出しながら竿を立てクリックをオフにして巻き始めたが、この時初めてパワーハンドルの必要性を実感した。石突きをヘソの下に押しつけ左手で竿を支え、右手でリールのハンドルを必死に回した。とにかく寄せなければ!頭の中を「早く巻き上げろ!」という思いが駆け巡る。雨に濡れた竿は滑りやすく、握る左手には余計に力が入り前腕はたちまちパンパンに張ってきた。まだ姿を見せない相手は強烈なパワーで何度も沖へ走ろうとするので16号を使っていてもつい道糸を出してしまう。

それでも何とか手前まで来たようだがまだ姿を見せずまた竿をのされそうになり沖へ走ろうとする。ここで竿を支えている左手をリールよりも元ガイドに近い所に持ち直した。これで少しは楽に竿が立てられるようになったが、石突きはますます腹に食い込んで痛い。これも大物釣りの醍醐味とばかりにグイッと竿を引きつけた。するとようやく相手が浮き上がった。

真っ黒だ!!どんよりした空を映す水面に現れた魚体は本当に真っ黒に見えた。青魚だ。正真正銘の青魚だ!
 

やはり重かった。どうしてもこの腕に抱きたかった巨大魚。夢にまで見た青魚。128cm


ここから今度は「バラすなよ!」という思いが頭をよぎる。バラしたらこれまでの全てが水の泡になる気がした。去年の五月から真冬を除いて毎週のようにこの場所に通い続け一年四ヶ月、この瞬間のために積み重ねた全てを無駄にしたくなかった。何より、ずっとお世話になりっぱなしだった師匠にこれでやっとひとつの恩返しができる!そんな思いが一気にこみ上げた。

姿を見せた青魚はなおも抵抗する。幸いなことに鯉のように左右に走り回るようなことがあまりなく、専ら岸と沖の往復の繰り返しだ。それがわかったら少し落ち着きを取り戻し右手に玉網を持ったが、左手が限界だった。相変わらず石突きが腹に食い込んで痛い。メーターオーバーの魚とのやり取りに慣れていない身は余分な力を使いすぎた。立てていた竿がまた寝てくる。仕方がないので腰を落とし両手で竿を持ち思わず「おい!頼む!こっち来てくれ!」と叫んでしまった。

そこへ昨夜からセイゴ釣りに来ていた顔なじみのおじさんが見物にやってきたので、玉網入れをお願いし、最後の力を振り絞って網に引きずり入れた。「やったあ!!」自然に言葉が出てしまう。待ちに待った瞬間だった。

陸に上げて師匠の車に飛んで行き報告した。まだ寝ていた師匠は正に飛び起きて二人で青魚に駆け寄った。「よかったなあ!」と師匠が声をかけてくれた。涙が出そうになった。
計測台は持っていないのでそのままメジャーを当てると128cm。小振りだが生まれて初めて釣った青魚だ。「師匠、ありがとうございます!」万感を込めて私は師匠にお礼を言った。それ以外のうまい言葉が見つからなかった。

そして待望の儀式だ。推定で20キロ台後半から30キロ弱だったろう。持ち上げられない重さではないが何しろ腕が疲れていたのと物凄いヌメリでうまく抱き上げられない。ここでまた悪戦苦闘したが何とか師匠に数枚の写真に納めてもらった。やはり重かった。どうしてもこの腕に抱きたかった巨大魚。夢にまで見た青魚。

直後にリリース。青魚はゆっくりと泳ぎだして行った。

玉網入れをしてくれたおじさんにもお礼を言って全ての竿を打ち直してコマセを撒き、やっとひと段落ついてからもうひとつの儀式が待っていた。メモ帳に釣果を記入するのだ。

「6:21 @  アオウオ 128cm」

このメモ帳に「アオウオ」という文字を書き込む瞬間。まだ興奮が治まらず手が震えてうまく書けなかった。サイズは二の次。とにかく最初の青魚を釣った喜びが全身を突き抜けた。

これでますますこの釣りから抜け出せなくなった。そして少しだけ、青魚という魚が自分にとって身近な存在になった。あの青魚は私のヘソの下あたりに竿の石突で圧迫された痛みと、左の前腕に筋肉痛を残した。

(終)


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