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プチサイエンス / 第1科学館:仕掛け強度を最大限に発揮するには

巨鯉との格闘中に無情にも仕掛けがブレイクし、悔しい思いをしたことがある方もいることと思います。そういう私も、何度かブレイクを経験し、その度に改良を重ねて現在に至っています。そんな経験の中から、「結局はどういう仕掛けが一番強いんだろう?」という疑問が沸々と沸いてきましたので、今回取り上げることにしました。
 

1.ラインブレイクは何故起こるか?

一言にブレイクと言っても、以下のパターンに別けられます。
(注)以下の記載はナイロンなどのモノフィラメントの場合に関するものです。
 

1-1.結節部のすっぽ抜け

鯉釣りでは6号から10号と、太いラインを使用しますので、注意しないと結び目がしっかりと締まらない場合があります。そのために、ラインに張力がかかると結び目がズルズルと滑って、終いにはラインがすっぽ抜けてしまいます。結び目はライン同士が互いに絡み合うことで、摩擦力を生じますが、ラインの張力がこの摩擦力を超えたとき、すっぽ抜けを起こします。摩擦力の大小は、結び方によって大きく左右されます。

1-2.直線部の破断

ライン直線部が破断する場合は、まずライン表面に微小なキズ(マイクロクラック)が発生し、そこから亀裂が成長して破断に至ります。マイクロクラックの発生原因は主に2つあります。ひとつはラインの擦れなどによる外的要因による発生、もうひとつは、張力が弾性限度を超えることによる発生です。最近のラインは品質が良いため、製造段階でマイクロクラックが発生する確率は極めて低いと考えられます。マイクロクラックが発生した後、ラインに張力がかかりますと、クラックの先端に張力が集中する現象(応力集中)が起こり、さらにクラックを成長させようとします。このことにより、亀裂が成長して破断に至ります。

1-3.結節部の破断

これは結び目のコブから切れるのではなく、例えばサルカンのリングなどに巻きつけた所から破断します。 これは、巻きつけたラインは、曲げ部分の外側に大きな引張りの力がかかり、ここにマイクロクラックがあると破断します。破断までのメカニズムは、上記「1-2.直線部の破断」と同じです。曲げ部の外側にかかる引張り力は、ラインの曲げR(半径)が小さいほど大きいと考えられます。
 

2.強度低下の回避方法
2-1.結節部のすっぽ抜け回避法

結節部の摩擦力を張力より大きくすれば良いのですから、ダイレクトに張力がかからないように結節部のラインの折り曲げ回数を増やすのが効果的です。その例として、8の字結びが挙げられます。通常のチチワの結び方に比べて、最後のラインを通す方向が異なって一回ひねりを増やしたことになり、摩擦力を増やしています。私が 鯉釣りを始めた頃は、6号ラインで通常結びのチチワを作っていました。ところが、チチワに両人差し指を入れて引張ったところ、いとも簡単に結び目がすっぽ抜けてしまいました。これを8の字結びにすると、たとえ14号ラインだろうと、全くそのようなことはありません。8の字結び>>
 
もうひとつの例はダブルループクリンチノットです。この結び方のポイントは、サルカン部のダブルループに 最後に通すラインだと思います。このことによってラインにテンションがかかるほどにダブルループの締め込み力が大きくなり、結果的にライン端末を締めつける摩擦力が大きくなってすっぽ抜けしにくくなっていると考えられます。この結び方は、サルカンの結節方法の中でも定評があります。ちなみに私は、新石鯛結び(変形ダブルクリンチノット)を愛用しています。新石鯛結び>>

2-2.直線部の破断回避法

これを回避するには、新しいラインをリールに巻きつけて使用するのが最も効果的です。しかし、鯉とのやりとりの最中に根擦れを起こし、ラインにダメージが発生する こともしばしばあります。これは鯉を釣り上げた後にラインを指でなぞってみると、かなりザラザラして いますのでわかります。そんな時は迷わずにラインを切り捨てるようにします。私は、釣行の度にラインを5~10m切り捨てるようにしています。
 

2-3.結節部の破断回避法

結節部のラインの曲げRが小さいほど、曲げ部外側にかかる引張り力が大きいことから、曲げRを大きくするのが破断回避に有効なのは明らかです。その観点からしますと、上記のダブルループクリンチノットは、ループ内に最後にラインを通すことで、曲げRを大きくするのに役立っていると考えられます。また、サルカンはサイズに応じてリング部の線径が異なることから、できるだけ線形の太い大きなサイズを用いるのが有効です。
 
クリップにチューブをかぶせるサルカンに関しましては、相当小さいサイズでも強度的には鯉の引きに十分耐えられますが、それよりもラインの結節強度の観点で大きいものを選ぶべきと考えています。その他に、クリップを用いる場合には、クリップにチューブをかぶせて太くするのが有効であることは、経験的にもわかっています。私の場合は網戸用のゴム管を使用しています。またクリップ側ではなく、ライン側にチューブをかぶせている方も多いようですが、これも効果があると思います。
 

3.仕掛け強度に関する実験検証

最終的には、仕掛けの強度に関して実験検証するのが最も信頼できるのは言うまでもありません。世の中には素晴らしいサイトがあるもので、丹念に実験を重ね、データを公開してくださっているところがあります。「クロダイ釣りの科学(房総)」では「ラインの引張り強さ」「ラインの結び方と強さ」のほか、クロダイ仕掛けに関する多くの実験を行っています。実験は非常に手間がかかるものですから、このサイトのウェブマスター小菅雅徳さんには本当に頭が下がる思いです。詳細なデータは、「釣りの科学」というページに掲載されていますので、是非御覧になってください。ここでは、内容をそのまま転載することはできませんので、結果の一部を紹介することにします。
 

3-1.サルカンの大小はラインブレイクに影響する

リング部の線径がΦ0.54mm(サルカン小)とΦ1.8mm(サルカン大)にフロロ1.7号(Φ0.24mm)を同じ結び方で結び、強度測定を行ったところ、サルカン大の方が平均で15%強度が高いという結果がでました。外部リンク
 

3-2.クリンチノットのループ数が多い方が強い

1.5号のナイロンラインをサルカンに結んで強度比較をしています。結び方はクリンチノットで、サルカンに巻きつけるループ数を1、2、3回としています。結果は以下の通りです。
・3重ループ:平均 3.08kgf
・2重ループ:平均 2.19kgf
・1重ループ:平均 1.93kgf
このことから、ダブルループクリンチノットよりもトリプルループクリンチノットの方が強いことがわかります。小菅さんが解説されていますが、1、2重ループはラインが滑って抜けてしまうことがあり、3重ループではそれがなかったと言うことです。ですから、摩擦力が十分に大きい3重ループが最も強度が高いという結果になったようです。外部リンク
 
以上考えたことを総括しますと次のとおりです。1)新しいラインを使用する。2)結節部は必要最小限にする。3)摩擦力の大きい結び方を使用する。4)曲げRをなるべく大きくする。このことは鯉師の皆様はすでに経験的に知り尽くしていることとは思いますが、今回は少しだけ踏み込んでお話しました。

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